【第4回】CRMデータ×Cookieデータを活用した広告配信

稲益 仁

国内におけるEC経由での物流総額は年々凄まじいスピードで上昇し続けています。
競争が激化していくマーケットにおいて、今後を勝ち抜いていくためにはEC事業会社それぞれが持つデータを活用したマーケティングがこれからは必要です。

本連載を通じて、最先端のデータマーケティングについて語ります。

【第1回】いまデータマーケティングをやるべきたった1つの理由
https://ecnomikata.com/column/9150/

【第2回】データマーケティングに取り組む際のデータ蓄積法
https://ecnomikata.com/column/9793/

【第3回】事例に基づくデータの活用方法(LINE編)
https://ecnomikata.com/column/10256/

事例ご紹介の前に。

事例ご紹介の前に。

前回はデータを活用したLINEにおける1to1配信の事例を紹介しましたが、第4回目の連載となる本稿では、CRMデータ×Cookieデータを活用した広告配信をおこなった事例を紹介していきます。

事例の前に、まずどのようなスキームで配信をおこなったかをご紹介します。

クライアントは、アパレルを中心とした総合通販会社。
売上も大きく新規顧客の獲得効率はよくない為、CRMを中心とした施策をおこない顧客離反を抑える目的で広告を実施。


今回の配信にあたり活用したツールは2つ。

① マーケティングオートメーションツール(以下MA)
② データマネジメントプラットフォーム (以下DMP)


1.MAにクライアントが持つCRMデータをインポート。
  同時にMAタグを設置しユーザー毎の来訪データも取得。

2.MAにインポートされたデータを分析しセグメントを作成。

3.おこなったセグメントは以下の3つ。
  1:過去購買履歴から購買が多いカテゴリー毎のセグメント
  2:LTVを分析し優良顧客をセグメント
  3:過去の平均購買間隔×平均来訪間隔によるセグメント


4.上記セグメントを設計しシナリオを設計。
  ex)毎日CRMデータ×来訪データを更新し、上記セグメント条件に当てはまる場合に広告が配信される。

5.同時にDMPのタグ、配信する媒体(Yahoo!/Google)タグを設置し、ユーザー毎が持つID(会員番号)とCookieデータを統合(シンク)させ、配信する準備をおこなう。

6.MAによるセグメント×自動的に配信対象ユーザーIDをDMPに送信することで、完全にIDおよび顧客ステータスに連携した広告配信を実施した。

配信事例1:過去購買履歴から購買が多いカテゴリー毎のセグメント

配信事例1:過去購買履歴から購買が多いカテゴリー毎のセグメント

過去購買データを分析し、過去に子ども服を購入しているユーザーをセグメント。
過去購買データから子ども服サイズを抽出し、次に購入しそうなサイズを決定し広告配信をおこなった。

ex)80cmサイズ購入者(子どもは1歳と想定)
  過去1年間購入がなければ子どもは2歳の為、100cm以上のサイズの子ども服を提案といった具合だ。


結果としては、CTRは大幅に上昇したものの、CVRはほぼ変わらず、CPAについては入札の調整もあり、通常のリターゲティング広告と比べて上昇してしまった。
仮説として、興味はあるものの購入に至っていないので、掲載する商品選定やリーセンシー(最終購買日からの経過日数)を見直すことで、効果が見込める施策として次のPDCAを回していく。

配信事例2:LTVを分析し優良顧客をセグメント

配信事例2:LTVを分析し優良顧客をセグメント

顧客毎の売上高から3段階に顧客を分類し、上位顧客のみをセグメント。

上位顧客に対して通常メールでおこなっていたセール情報を配信した。(メールが読まれていない仮説の上)

結果としては、CVRが大幅に上昇し、CPAも通常リターゲティング広告と比べて30%減と大きな成果が出た。
メールが読まれていないという仮説による広告配信は、接触できていない上位顧客に接触することができる施策として効果もよいため、今後も改善を重ねて配信をおこなっていく。

配信事例3:過去の平均購買間隔×平均来訪間隔によるセグメント

配信事例3:過去の平均購買間隔×平均来訪間隔によるセグメント

最終購買日から一定期間が過ぎ、休眠顧客となったユーザーに戻ってきてもらう為には、通常セールなどの手法があるが、利益率低下にも繋がる為、安易におこなうことはできない。
その為、“離反しそうな”顧客に対しての広告配信をおこなうべく、上記を軸としたセグメントをおこなった。

ex)セグメント例

30日の平均間隔でECサイトへ訪問していたユーザーは、平均45日毎に過去商品を購入していた。
直近60日で購入がなく、サイト訪問も最終訪問日から50日が経過しており、このままだと休眠化しそう。その為広告を配信しサイトへの呼び戻しを行いたい。


結果は、CTR/CVR/CPAともに悪化しており、効果がある施策とは言えなかった。
“離反しそうな”顧客へ対する配信は、タイミングや過去購買履歴に基づく商品提案では反応しない為、よりオファーの強い(購買時のクーポンなど)の施策をおこなっていく必要がある。

この3施策に共通する“ポイント”とは…?次のページへ

広告配信の重要なポイント

今回は、CRMデータとCookieデータを使用し、広告配信をおこなった事例をご紹介いたしました。

効果という点では、まだまだ改善の余地が残りますが、ポイントとなるのは、「“誰に”“何を”“どのタイミングで”実施していくか」という分析とセグメンテーション、企画です。

今後また新しい事例が出てきましたら、機会を得てご紹介していきます。

次回は、今後のCRMについてお話しさせていただきます。


著者

稲益 仁 (Jin Inamasu)

1981年福岡県生まれ。広告代理店でのグラフィックデザイン・編集デザイン経験し、2006年にサイバーエージェントへ入社。福岡支社に配属して以来、一貫して“単品リピート通販”クライアントを担当。2014年4月にダイレクトマーケティング局を立ち上げ、全国各地の単品リピート通販企業をスタッフとして支援。事業計画の策定から、販促企画・クリエイティブ、CRM企画まで多岐にわたり、デジタルマーケティング業務全般に従事。そして2015年6月に顧客のLTV最大化をミッションとした専門組織「eCRMソリューション局」を設立し局長に就任。顧客の購買データを活用した全く新しいCRMソリューションを国内に浸透させるべく、日々全国を飛び回る毎日を送っている。社内表彰ではベストプレイヤー、MVP、ベストマネジャー等多数受賞の実績がある。