【第三回】意外と知らない海外ユーザーの実態~利用者約1.9億人のPayPalが語る決済~

野田 陽介

 こんにちは。PayPalの野田陽介です。前回触れましたが現在、日本からの越境EC(輸出)は市場規模で1〜2兆円あります。昨年から「インバウンド」が大きくメディア等で取り上げられるようになりましたが、2015年のインバウンド関連の消費額は約3.5兆円と公表されています(観光庁)。このうち約1.5兆円が買い物(残りは宿泊や飲食)ですので、実は越境ECは街で見かける訪日旅行者が消費する金額と同様の規模があります。

 そんな越境EC、既に取り組まれている方やこれからという方、様々かと思いますが、いずれにしましても最終的に購入する海外ユーザーの実態把握は欠かせない戦略要素かと思います。どこの国に売れるのか?どのように買っているのか?気をつけるべきこと等など。今回は昨年2015年にPayPalが実施した海外主要29ヶ国ユーザーに対するアンケート結果をもとにその実態を紹介していきます。

【第一回】越境ECと決済の進化
https://www.ecnomikata.com/column/10435/

【第二回】フィンテック法規制
https://www.ecnomikata.com/column/11154/

 まず、一般的に海外ユーザーはどれくらい越境ECで買い物をしているのか?

 調査対象29ヶ国の約半数の14ヶ国で5割以上のユーザーが自国外のECでものを買っている、という結果が出ました。

 海外のECサイトからものを買う、というのは日本人の感覚では日常的ではないかもしれません。しかし、この結果を見る限り海外ユーザーには国境を越えて買い物をする、ということが一般的になっている、と捉えることが出来ると思います。我々が思っている以上に海外ユーザーは越境ECに対して抵抗がありません。実は日本が対象国の中でも一番越境ECの経験が低く、10%強しか越境ECを経験していませんでした。やはり言語の壁や、自国である程度ものが揃っていることが大きな要因になるかと思います。

 続けて、越境ECでものを買う海外ユーザーはどのデバイスから購入しているのか?

 殆どの国でも未だパソコンが主流です。越境EC経験者が多いオーストラリアやシンガポールでも購入者の7割はパソコンを利用している、と回答しています。日本国内ECではモバイル経由が半数を超えていますが、越境ECとなるとまだモバイルが主流、とはなっていません。

 越境ECが一般的になりつつあると言うものの、やはりユーザーは多くの情報を求め、調べてから買うというのが要因でしょうか。今後、モバイルが伸びていくことが予想されますが、現時点ではパソコンへ最適化することが最善と読み取れます。

 そして、それら越境ECユーザーは実際何を買っているのか?

 主要5ヶ国(米、中、英、仏、豪)のユーザーに対して、よく売れている商品カテゴリーを見てみましょう。5ヶ国全てで1位が「衣類・アパレル」となっています。ファッションは消費者のアンテナが高いのか、国境を越えて情報が行き来しやすいのかもしれません。

 尚、ここで言うアパレルは高級ブランド品も含まれます。特に日本からの輸出について高級ブランド、特に中古品はよく売れる傾向にあります。日本人がキレイにものを扱うことや本物を扱っている信頼性が背景にありますね。

 次に、越境ECバイヤーが購入時どのような心理状況にあるかを見てみたいと思います。越境ECユーザーに対してどのような時に購入を諦めるか?またどのような事が購入を決める要因になるか?を聞きました。

 まずはどのような時に諦めるか?これはどの国のユーザーに聞いても1位は「送料が高い」という声です。確かに国際配送はお金がかかりますし、配送先の国によって送料が異なるため、送料を一律で安く提供することは中々難しいかもしれません。

 一方、例えばダンボールや梱包を商品に最適化することで少しでもサイズを抑え、配送料を抑えることは可能です。越境ECの先駆者である“Tokyo Otaku Mode”ではダンボールの仕様(大きさだけでなく材質)まできめ細やかに選定しています。

ユーザーが商品を購入する可能性が高くなる理由は何でしょうか。次のページへ

 他方、購入する可能性が高くなる要因は何か?と言うものに対しては、先述の諦めた理由と反対で「送料無料」が大きな購入ドライバーとなっています。越境ECに限らず国内ECでも「送料無料」は購入のハードルを大きく下げますが、越境では送料の占める割合が高いためより一層強い動機になっています。“xxx円以上で送料無料“など、「送料」の見せ方は工夫の必要性大です。

 また「送料」と並んで購入ドライバーの上位を占めているのが「安全な決済」。EC決済の主流はクレジットカードですが“本当に番号を入力して大丈夫か?”“不正に使用されるのではないか?”など、決済への不安の裏返しかと思います。特に国境を越えて他国のECサイトへ番号を入力する、というのは心理的ハードルが相当高いです。こういう時、PayPalを初めとしたID決済はその価値を存分に発揮します。ID決済はクレジットカード番号を直接ECサイトに入力することなく決済が出来る仕組みを提供しています。

 以上、これまでPayPalが実施したアンケート結果の一部をご案内しましたが、大切なことはそれぞれの国によってユーザーのおかれている環境や文化、習慣が全く違うということ。「越境EC」や「グローバル」と一言で言ってもターゲットとしている国によって対応が全く違ってきます。

 当然ながら言語はその最たる例で、例えば中国をターゲットにするのであれば中国語(簡体字)表記が必要ですし、通貨もターゲット国に合わせるのが通例です。細かいところでは住所や電話番号の入力欄を現地仕様に合わせることや、サーバーもターゲット国からアクセスしやすい(アクセス速い)インフラ設定・チューニングが必要です。折角いいページを作ってもアクセスにストレスがあればお客様は店に入ってきません。

 最後になりますが、これまで紹介したアンケート結果や各国のユーザー・文化情報などPayPalではその全てを一般公開しています。まだ英語のみの公開しかありませんが、PayPal Passport(https://goo.gl/cjM0ki)と言うサイトで主要国に関する様々な最新情報を適宜提供しています。

 先述のアンケート結果に加えて、例えばですが各国のセール・イベント。来週に迫った中国のシングルスデーは最近メディアでも取り上げられ有名になりましたが、各国で特有の祝日やセール・イベントが開催されています。あまり知られていない所ですと、オーストラリアでは「Click Frenzy」と言うアメリカのCyber Mondayを真似て作られた年に一度の大セール日があります。

 このような大セール日に国の消費が集中することを考えれば、ターゲットにしている国の消費習慣を把握することも重要です。PayPal Passportにはこのような各国の消費習慣も合わせて情報提供しています。

 越境ECで成功するためにはターゲット国のユーザーを知ること、理解することが必須です。今回はほんの一部をご案内しましたが、まずはターゲット国について理解を是非深めて頂ければと思っています。

 次回は具体的に越境ECの始め方についてご案内したいと思います。


著者

野田 陽介 (Noda Yosuke)

 事業開発部 部長

 電機メーカーで設計開発に従事後、ベンチャーキャピタルにて米国を担当。ITにフォーカスした投資および日本におけるビジネスディベロップメントを担当した後、シリコンバレーにてスタートアップ立ち上げ。その後、PayPalに参画し事業開発を担当。

PayPal Pte. Ltd. https://www.paypal.com/jp

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