EC必見!「宅配クライシス」攻略法

湊 重幸

第1回(全4回) 待ったなしの宅配クライシス ECが今こそ取り組むべき 課題が見えてきた

2017年3月に発表された、ヤマト運輸の宅配料金値上げニュースをきっかけに、これまで安く抑えられていた宅配便料金の見直しが一気に進んできました。「一律いくら」の料金体系から脱し、本来あるべき運送料金を算出するには、荷物サイズの正確な計測作業が欠かせません。
しかしいったい誰が、その作業を担うのか・・・? 新たに必要となったこの作業は、運送料金の値上げとともにECショップにダブルパンチとなるのでしょうか・・・!?
寺岡精工で長年にわたってロジスティクス部門に携わってきた 湊 重幸 が、「宅配クライシス」を生き残るECショップになるために、この逆境をチャンスに変える手立てを、全4回のコラムでご紹介します!

宅配クライシスを取り巻く現状

2017年3月に新聞で報道されたヤマト運輸の送料値上げ宣言をきっかけに、宅配料金の見直しが急速に進んでいます。料金体系をはじめ、宅配業務全体の改善を行わなければ、いずれ物流がパンクし、モノが届かなくなるとまでいわれている「宅配クライシス」。まずはこの危機を生み出している“物流の現状”についておさらいしてみたいと思います。

【急激な拡大を続けるネット市場】

平成28年度の国内のBtoC-EC(消費者向け電子取引)市場規模は、15.1兆円、前年比9.9%増と、堅調な伸びを続けています。なかでも、物販分野でスマートフォンを経由して行われたBtoC-EC市場は2兆5,559億円。前年比28.7%増と、驚異的に市場が拡大しており、すでに物販BtoC-EC全体の約3割超を占めるに至っています。

             日本のBtoC-EC市場規模の推移 (経済産業省HPより)

            スマートフォン経由の市場規模の前年比較(経済産業省HPより)

加えて、ここ数年でネットオークションやフリマアプリといった、CtoC-EC市場が急成長してきました。平成28年度のネットオークション市場は10,849億円、フリマアプリ市場は3,052億円。スマホを利用して個人が気軽にモノを売ったり購入したりすることが、若い世代を中心に急速に広まり、市場は今後もますます拡大していくと予想されます。

こうした状況を裏付けるように、28年度の宅配便等取扱個数はなんと40億個以上! そのほとんどがトラックによる輸送です。

               宅配便取扱個数の推移(国土交通省HPより)

【物流ドライバーの人手不足、労働条件悪化】

EC市場の急激な拡大に反比例して、荷物を運ぶドライバーの人手不足はますます深刻化しています。「1個いくら」といった配送原価を無視した受注、「送料無料」などによる価格設定のゆがみ、再配達指定などの対応のため、いつまでたっても仕事が終わらない、残業が多いのにその分の給与は支払われない、といった物流業界特有の問題が、ドライバーの労働条件の悪化や人手不足を助長する要因となってきました。

ますます増加する荷物の数に対して、ドライバーの数は減少する。この需給バランスの崩れが、宅配クライシスの根本にあるのです。

          ドライバーの労働条件等について(国土交通省・厚生労働省の資料より

ネット通販最大手アマゾンに対し、 ついにヤマト運輸が値上げを申し入れ

そしてついに2017年3月、「宅配最大手のヤマト運輸が、2017年9月から一般向けの宅配料金を最大20%値上げする」という新聞記事が発表されました。
実際、同社は10月から宅配便の全面的な値上げを実施。アマゾンとの価格交渉も成立し、約4割の値上げが実現する見通しだという報道があったのは記憶に新しいところです。

一般的に物流会社とECショップとの間では、荷物の大小や重さとは関係なく「1個いくら」で配送料金が決められているケースが少なくありません。荷物の大きさや運搬距離に関係なく金額は一律。サイズによって料金が変わるわけではないので、箱の大きさも統一。例えばアマゾンでモノを購入すると、ボールペン1本でも百科事典なみの段ボールに入って届けられることがあったのは、その一例です。

おそらくヤマト運輸の宅配料金改定のなかには、この「1個いくら」という、配送料金体系の見直し徹底も含まれているのではないかと推察します。ところが、この「1個いくら」方式での価格決めを解消するためには、これまでなかった新たな作業が発生するのです。

ECがこれから取り組むべき課題

配送料金と一口にいっても、そこにはさまざまな作業にかかる費用が含まれています。
たとえば、荷物のサイズや重さをはかることもその一つ。適正な価格を決めるには、荷物の大きさを正確に測り、サイズや重さ、配送距離などを元にした料金表に照らし合わせて価格を決める、というプロセスが必要になります。

これまでの「1個いくら」の価格設定では、荷物のサイズを測る必要がありませんでした。ところが、「1個いくら、の安売りをやめる」となると、送料計算のエビデンスとして利用する目的からも、「荷物サイズの正確な計測」という作業が必要になってきます。

問題は、誰がそれをやるのか、です。

宅配ドライバーは、すでに既存の業務で手一杯。そこへ新たに「荷物のサイズを測る」といった仕事を追加できる余地は、全くもってないでしょう。となると・・・。

ECショップとしては、大変な事態となってきたわけです。配送料金の見直しを迫られてるうえ、荷物サイズを正確に測るという新たな負荷まで発生すれば、配送料どころか人件費までアップすることになりかねません。

物流会社が、けっこうな強気で料金値上げを申し入れてきている今、送料をよりリーズナブルなものに改善していく余地は、ECショップにあるのでしょうか!?

その答えと具体的な方策を、物流のエキスパートTERAOKAが次回以降のコラムでご紹介します。

どうぞお楽しみに!


著者

湊 重幸 (Shigeyuki Minato)

建設業界、FA業界を経て寺岡精工に入社後は、生産管理や宅配スーパー、情報システムなど21年にわたってロジスティクス部門に携わってきた、物流のエキスパート。

TERAOKAのソリューションによって、物流コストにあえぐECショップから1社でも多く宅配クライシスから救うべく、今日も奮闘中。

https://www.teraokaseiko.com/jp/business/logistics/