EC店舗の売上高が10億円に達するための道のり

ECのミカタ編集部

 公益社団法人 日本通信販売協会によると、2015年度の通信販売市場の売上高は6兆5,100億円である。2005年以降、EC市場は伸び続けている。その状況を受け、次々と新しいEC店舗が登場している。その中で勝ち抜くためには、どのようなことをしたら良いのだろうか。

 株式会社ダイレクトマーケティンググループでは、柿尾正之氏を講師に迎え、年商10億円突破のためのダイレクトマーケティングノウハウを全7回にてレクチャーを行っている。第1回【10億への通販事業の構築とポイント】で語られたこととは…

物販よりもサービス・デジタルの時代が到来?

 経済産業省の「平成27年度・電子商取引に関する市場調査」によると、2015年は13兆7,746億円となり、EC化率は4.75%である。この内訳は、物販系分野が7兆2,389億円、サービス分野が4兆9,014億円、デジタル分野が1兆6,334億円だ。この数字を見て分かるように、サービス分野とデジタル分野が合わせて5兆円近くと、物販系分野を追い越す勢いだ。今までは本屋で本を購入すると「物販」であったが、電子書籍で購入すると「デジタル分野」となる。雑誌もデジタル分野の移行も強まったことを受け、柿尾氏は「紙がなくなることはないが、デジタル化は進んでいくのだろう。」と語った。

 同調査の「物販系分野のBtoC-EC市場規模」では、「家電関係」のEC化率が28.34%と伸びている。続いて、「事務用品」が28.19%と続く。これは、「最近勢いが凄まじい「アスクル」の影響が強い。」と柿尾氏は話した。さらに、オムニチャネルを強化しているニトリなどの影響により「雑貨・家具・インテリア」も16.74%と伸び続けている。

「マスメディア4媒体」の危機、ラジオだけは安定

 電通の「日本の広告費(2015)」によると、2015年の総広告費は、前年比100.3%の6兆1,710億円である。その中のインターネット広告費は1兆1,594億円に上る。「マスメディア4媒体」の1つである新聞は、2009年にインターネットに追い越され、減少傾向にある。同じく雑誌も、年々減少していることが現状だ。

 柿尾氏は「テレビもいずれネットに抜かれる。」と言う。

 テレビの実態は、想像以上に深刻だ。まず、テレビ広告(CM)は、全体の18%しか放送することはできない。さらに、近頃はCMを視聴者が見ずに、CMが流れる間、スマートフォンを操作するケースが多く、CM効果も薄れつつある。また、CMの代わりに、30分枠の通販番組も登場した。しかし、開始当初は人気を集めていたが、最近は、「テレビ離れ」や「録画をして後で見る人」も増えてきており、効果が薄れていっている。

 一方、ラジオは10年間変わらない数字を保っている。ラジオを主に利用しているのは、以前は年配の方が多かった。テレビ・新聞、インターネットは目が疲れることを考えると音だけのラジオが最も易しいメディアとなる。だが、最近では若い世代でも車の運転中や、「好きなタレントやアーティストがやっているから」との理由でラジオを聴くこともある。そういったことを考えると、ラジオで通販情報を流すことも効果的かもしれない。

ネット通販の現実と希望

 東京商工リサーチによると、通販・訪販企業の倒産件数は過去最多の前年同期比39.1%増加した。その背景には、安易に参入してしまい、多くの同業他社の中で自社の差別化ができない企業の存在がある。なお、アパレル関連に関しては設立5年以内に倒産したケースが増えている。

 そのような状況ではあるが、EC業界の参入障壁の低さや越境ECの成長など、EC通販市場は依然として拡大が見込まれる。さらに、機能性表示の新制度などによる「健康食品」ブームの追い風や、配送業界との連携による配送時間の短縮などは、ECの利便性向上も希望となる。しかし、ヒット商品がないと大きな売上を上げることは難しい、単品系の通販では成長が見込めないなど、現状が変わらないなどの声も聞かれる。

 これまでは成長を続けてきた、総合通販における単独ビジネスモデルにも限界がきており、自社企画型健康食品企業の停滞が見られる。これを脱するためには、実店舗と連携を取るオムニチャネル化や地方企業の通販への進出が効果的だと言われる。

売上高10億円に達するための壁

 日本全国には412万8,215の企業が存在する。このうち約4割強が法人企業であり、その数は約170万社となっている(平成24年2月時点)。その中で年商10億円未満の企業は78.8%となる。通販業界では、上位300社のボーダーラインは年商27億円であり、JADMA会員の約半分は10億円未満だ。

 売上高10億円を超えるためには、いくつかの壁がある。これは一般論だが、EC店舗の社員数は10名~50名が多く、その中でバラバラに「個人戦」で動く人が多いと、共通の目標に向けて進んでいく「組織戦」が出来ずに乱れてしまう。ここで足踏みをしてしまうと、資金送りが難しくなり、今度は経営者とマネージャーがぶつかる機会が増える。逆にこういった壁を乗り越えることで、売上高10億円の企業へと成長することができる。

「ヒット商品」を作るためのポイントは次のページで解説!

「ヒット商品」を作るためのポイント

 EC店舗が多々存在する中、他者に勝つためには「ヒット商品」の存在が重要だ。「ヒット商品」を作るためには、商品の研究と価格・売り方の検討、顧客ターゲットなどを慎重に考え、決めていく必要がある。

 柿尾氏は、いくつかの事例を紹介しながら、「ヒット商品」を生み出す術を解説していった。

【山代温泉 宝生亭】
 山代温泉では、お客様に毎度DMを送っている。その内容は、「またお越しください」とよくある内容だ。そこで、他の店舗と差別化するために、DMにはお客様の名札を付けている。この特別感が反響を呼び、8割弱のお客様がまた訪れるそうだ。こういった、DM1つでもちょっとした工夫をするとお客様の心に届くのだ。

【三陸おのや】
 三陸おのやの商品は、岩手県三陸・釜石の魚などの海のごちそうである。2009年11月に通販事業をスタートし、初回注文から定期購入を条件とし、新聞15段を利用して宣伝していた。しかし、目標CPOには行かずに厳しいスタートとなった。
 
 その後、レスポンス結果分析や顧客ヒアリング、他社の広告を研究し、カラーの新聞広告に変えた。さらに、お礼状や手作り会報誌、ブログを設立した結果、売上高が6年で4倍となった。このように、上手く行かないときは1度立ち止まって、最初から考えていくことが必要なのかもしれない。

【井上誠耕園】
 井上誠耕園の商品は、1,800円相当の「緑果オリーブオイル」である。この金額を見て「高い」と思うかもしれない。しかし、この商品は人気を得ている。それは、商品そのものの質の高さはもちろん、ECサイトでの紹介の仕方に秘密がある。
 
 井上誠耕園のECサイト上には、「想い」や「スタッフ紹介」などが掲載されている。その「想い」に人は心惹かれ、井上誠耕園のことを好きになり、商品を購入する。さらに、「お散歩マップ」も掲載してユーザーを楽しい気持ちにさせていることも人気の理由に入る。

 事例を紹介後、柿尾氏はMD(Merchandising)の基本として以下の6つを挙げた。

【MDの基本】
・店で売れる商品は売りにくい
・説明が必要な商品は向いている
・気づきを与えてくれる商品が適している
・提供者が売りたい理由がある商品
・店販よりも高い価格設定ができる商品
・40代以上女性に売れる商品

 そして、柿尾氏は本セミナーを以下のように締めくくった。
「売りたい理由を見つけ、それをメッセージとして創り上げること」

 EC店舗設立当初は、ほとんどの場合、売上を少しでも伸ばすために悪戦苦闘する。それは間違ったことではないが、必死になると大切なことを見失いがちとなる。一緒に働く社員の声や商品を購入するお客様の声が届きにくくなる。しかし、売上高10億円を目指すためには、そういった「人の声」が何よりも必要となる。必死に走っているときこそ、1度立ち止まり、周りの声を聞くことが大切なのだ。

 人の声を商品開発に活かすと、柿尾氏が話していたような、売りたい理由が明確で、かつ、メッセージ性が高い商品が誕生する。その繰り返しが「ヒット商品」を次々と誕生させ、売上高10億円に近付くことができるのだろう。

10月以降の第3火曜日にDMG東京で開催されるセミナーの詳細


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