ECのネガティブ要素は実店舗とテクノロジーで解決! お客様の「快適な買い物」を追求するSHIPSの戦略

田中凌平

(左から)株式会社シップス 販売促進部 デジタルマーケティング課 課長 平中真澄氏、商品2部 EC課 課長 浅野尚道氏

メンズ・ウィメンズ・キッズのアパレルと服飾雑貨をそろえ、幅広い層をターゲットにするセレクトショップの老舗「SHIPS」は、「Stylish Standard」をコンセプトに、トレンドとベーシックをミックスしたスタイルを提案している。実店舗だけでなくECの機能も充実させており、2024年4月からは会員制度もリニューアルした。お客様がECでも実店舗でも快適に買い物ができるための取り組みについて、「SHIPS」を運営する株式会社シップスの商品2部 EC課 課長 浅野尚道氏と販売促進部 デジタルマーケティング課 課長 平中真澄氏に伺った。

ECと実店舗の得意な部分をそれぞれ伸ばしている

——幅広い層のお客様がいらっしゃいますが、ECと実店舗で戦略の違いはあるのでしょうか。

株式会社シップス 商品2部 EC課 課長 浅野尚道氏(以下、浅野) 基本的にターゲットは変えていませんが、一部ECで購入いただきやすい商材を展開しています。ECではシャツやパンツなどのカテゴリー関係なく、画像で一目に特徴を認識できるようなポイントがある商品が購入されやすい傾向にあります。反対に、素材にこだわっているような高価格帯の商品はスタッフの接客が決め手になることも多いので、実店舗の方が好調ですね。

——ECで商品の魅力を伝わりやすくする工夫などされていますか。

浅野 商品ページを充実させています。デザインやポイントとなる部分が目立つような画像をデフォルトに使用し、複数のスタイリングを載せるように心掛けています。また着用動画を活用していますね。

また、コロナ禍を経て実店舗の売上が戻ってきている今、実店舗とECの双方で評価いただけるような商材の創出に力を入れております。実店舗では商品を置けるスペースが限られているため、ECで先行品として予約を行い、お客様や店舗スタッフの反応が良かった商材を実店舗で展開するなどの取り組みも行っています。

「(ECでは)画像で認識できるようなポイントがある商品が売れやすい傾向」と語る浅野氏

ECの活用でお客様のネガティブな体験をなくす

——これまでのEC運営の動きをお聞かせください。

株式会社シップス 販売促進部 デジタルマーケティング課 課長 平中真澄氏(以下、平中) ここ5年の動きですと、2019年にECで気になった商品を実店舗で取り置きしておき、実際の試着と購入を実店舗でできるサービスを開始しました。2020年には、店頭にはなかった色違いやサイズ違いの商品がECにある場合、実店舗で決済をしてご自宅に配送するサービスを構築しています。

——どこかに在庫さえあれば、お客様が気に入った商品を購入できる環境を整えてきたのですね。

平中 まずはお客様にとってネガティブな経験をなくそうと考え、ECと実店舗をうまく連携して快適なお買い物体験を提供できる環境にしてきました。この考えがベースにあり、2022年にアプリをリニューアルしました。

以前のアプリはお客様の会員証の提示やイベント情報やスタイリングの閲覧などの機能にとどまっていたのですが、アプリ内でも買い物がスムーズにできるように改修しました。ECと実店舗のハブとしてアプリを利用するイメージです。

アプリをリニューアルしたことで「実店舗中心のご利用からECと実店舗のクロスユースも増えた」と平中氏

——アプリのリニューアルで効果は感じられましたか。

平中 アプリ経由での売上が伸びましたし、実店舗中心のご利用からECと実店舗のクロスユースも増えています。アプリが実店舗にお越しいただけない時でももお客様との接点となることで、よりSHIPSを身近に感じていただけています。

アプリでは商品のお気に入りだけでなく、スタイリングをアップしているスタッフをお気に入り登録することも可能です。スタッフのスタイリングはお客様の需要も高いですし、アプリ内でお気に入りスタッフのスタイリングをチェックして、着用アイテムをお気に入り登録するといった利用も増えています。

メリットがあるのはお客様だけでなく、スタイリングの閲覧や着用アイテムの購入によってスタッフの活躍を評価する制度も設けているので、以前よりスタッフがSHIPSの魅力を発信するモチベーションになっていますね。

——2024年4月からは会員制度をリニューアルされたのだとか。

平中 お客様のニーズや生活スタイルが変わる中で、よりお客様が買い物を楽しんでいただけるようにとリニューアルを行いました。これまでは生涯の累計購入金額で会員ステージが決まっていたのですが、年間の購入金額に応じて会員ステージを定めることで、直近でよくご利用いただいているお客様にはより高いステージに行きやすくなるようにしています。

また、メルマガ登録や来店予約サービス、衣料品回収、ショッピングバッグの辞退などお買い物以外でポイントが付与されるのも特徴です。

新会員制度では、メルマガ登録や来店予約サービス、衣料品回収、ショッピングバッグの辞退など「お買い物以外」でポイントが付与される

ECのネガティブ要素は実店舗とテクノロジーで解決!

——自社EC以外のECモールでの施策もお聞かせください。

浅野 まずは広告戦略が挙げられます。ZOZOTOWNでは打ち出したい商品に絞って広告を出せ、それを追加生産の管理にも活用しています。

また、数年前からサステナブルの取り組みとして「Made by ZOZO」という完全受注生産での販売にも参加しています。受注した分しか生産しないので、在庫を余らせることがありません。SDGsの流れもあり、売上も伸びてきてヒット商品が生まれるケースもあります。

——ECと実店舗の連携に関する施策もあるのでしょうか。

平中 自社ECサイトに在庫がなくても、お店に在庫があれば購入が可能になる仕組みなどは店舗スタッフと自社ECが連携しているサービスです。また、最近ではスタッフが積極的にSNSやスタイリングの更新をしてくれるので、ブランドの魅力の発信頻度が増えてきました。

浅野 実店舗のスタッフから「この商品はこれを伝えたらお客様に喜んでいただいた」という言葉をまとめて、ECの商品ページに活かしたり、また週会議では店舗で反応が良かったコーディネートをヒアリングして参考にするケースもあります。お客様のリアルな反応はECでは目に見えないので、現場からの声は大切です。

EC運営は大変だが、結果が反映された時のうれしさの方が大きい

——ECで手応えを感じている部分をお聞かせください。

平中 2022年のリニューアル以降、お客様がお気に入りした商品情報を基に、商品が値下げしたタイミングや在庫が少なくなったタイミングで、お知らせをお送りする仕組みを実装しましたが、そういったお客様一人ひとりに合わせた情報配信をできるようになった事はお客様にとっても利便性が向上したのではないかと思っています。

——EC運営で大変なことはどのようなところでしょうか。

浅野 撮影が一番大変ですね。撮影にはサンプルやモデル、ヘアメイク、場所のスケジュールをすべて合わせないといけません。また、EC以外にもSNSチームやプレスもあるので、多くの調整が発生します。

準備だけでも大変ですが、ブランディングの面においても撮影は重要です。これまではスタッフやEC課のメンバーがモデルになっていたのですが、イメージを再構築しようとプロのモデルに依頼して撮影をするようになりました。

モデルを変えた直後は実績がまったく伴わず焦りましたが、徐々に実績も増えてきたところです。画像の雰囲気を変えることの影響の大きさを知りましたね。

平中 反対に自分たちで何かを変えた時にPVが増えた、返品が減ったと成果が見えた時はうれしいです。

2023年の秋冬から始めた女性向け新ブランド「quaranciel(カランシエル)」

——2023年の秋冬からは「quaranciel(カランシエル)」も始められましたね。

浅野 quarancielは多忙な働く女性に向けたブランドで、オンオフ兼用で使えるトレンチコートや、スタイリングに迷わないセットアップ商品などを展開しています。お客様のライフスタイルの変化に伴って、自宅で洗える商品の需要は高まっています。quarancielに限らず、SHIPSのブランドイメージを守りながら、お客様の需要に寄り添うイージーケアできる商品は全体的に増えていますね。

これからもお客様へのサービス向上を続けていきたい

——EC運営で大切にしていることをお聞かせください。

浅野 とにかくサービスの向上を続けていきたいです。商品ページをいかに充実させられるかがポイントだと思うので、着用レビューや動画、スタイリングなど多くの情報を掲載していきます。

平中 分かりやすく、安心して買い物していただける環境を大切にしていきたいです。ECなのでテクノロジーの力が大きいですが、プラスアルファでそれをコントロールするCSチームや自分たちの経験も加えて、お客様に向き合っていきたいですね。

浅野 近年はECと実店舗の相互理解が深まっているので、スタッフも積極的に案内と活用をしてくれています。次に入ってくる商品を案内して再来店を促したり、自分のスタイリングを発信したりと活用の幅は広まっています。今後もECと実店舗でうまく共存していきながら、お客様にSHIPSの魅力を届けていきたいですね。

平中 もっとお客様とコミュニケーションが取れる機会も増やしていきたいです。ECや商品に触れてもらう機会を増やして、そのアクションに応じて適切なコミュニケーションが取れれば、信頼関係の構築につながると感じています。

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記者プロフィール

田中凌平

フリーライター。東京都生まれ。ラグジュアリーブランドでの接客経験を活かし、話し手に寄り添ったインタビューが得意。上場企業の経営層から個人まで幅広く対応。ジャンルを問わずSEO記事やコラムも執筆し、取材記事を含めてこれまで300本以上の記事を執筆。

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