日本のEC市場で中国企業が台頭するジャンルは? Nintが徹底調査!

山本 真大

こんにちは、国内外の主要ECモールの推計データを提供するデータカンパニー、株式会社Nintでデータアナリストをしている山本と申します。前回・前々回の記事はいかがだったでしょうか。EC市場全体と、モールセールに左右されない季節性ジャンルの存在を確認することができたと思います。

第3回のテーマは「日本EC市場における、中国企業の台頭と影響」です。

はたして海外ブランドは日本のEC市場へどの程度影響を与えているのか。前回同様、ジャンルの特徴などを、Nint ECommerceを用いて分析を行っております。今回の調査にあたり設定した定義は、備考欄にて記載しております。

早速見ていきましょう!

以前の記事はこちら!▼vol.1vol.2

海外企業が日本のEC市場へ参入を強めたのはいつ?

海外企業が日本のEC市場へ参入を強めたのはいつ?図1:3大ECモール上位150社の売上推移(2023年度ベース)

図1は3大ECモールの2023年売上上位150社の2019年度からの推移と、2023年の段階での企業数を示しています。また、上位150社の市場全体構成比は、約31.0%です。

中国企業をはじめとした海外企業は、「確実に伸長」している一方で、「市場全体」で見ると、市場を震撼させるほどの規模にまでは成長していないことがうかがえます。

図2:3大ECモール上位150社売上構成比推移(2023年度ベース)

図2から、2019年から2021年はシェア率に大きな変化は見られませんが、2022年以降には、日本企業の売上構成比が70%を下回ってきていることがわかります。このことは、2022年以降、海外企業が日本のEC市場へ参入を強めた可能性を示唆しています。

特に、2023年は日本企業のシェア率が前年比で3%ポイントのマイナス、2021年比では5%ポイントのマイナスと大きく減少していることが分かります。

2023年はコロナの5類移行をはじめとし、アフターコロナを迎え、外出等の行動も活発になり、リアル店舗の売上が回復した年でした。

海外企業が日本企業に比べ販売価格が安い傾向があることから、ひょっとしたら消費者が「価格」や「リアル店舗では手に入りにくい」などの点を、より強くEC市場へ求めるように変わっている可能性が考えられます。
2023年の結果は、そのような「変化」の兆しの現れなのかもしれません。

次に、各モールでの2023年度上位150社の国別企業数を確認します。

3大ECモール全体に比べ、中国企業の数が多いモールとは

図3:各モールと3大ECモールにおける、売上TOP150社の国別企業数(2023年度)

モール別に2023年度上位150社の国別企業数を見ていくと、日本企業の数が最も多いのがモールA、次いでモールBであることが分かります。モールCに関しては、3大ECモール全体に比べ、中国企業の数が多いのが特徴です。

各モールの売上TOP150社で見る限りでは、モールA・Bに比べ、モールCは海外企業数の数が多く、おそらく海外企業が参入しやすい土壌となっているのではないかと推察されます。その他考慮すべき要素として、売上構成比での確認があります。今回は割愛しますが、調査自体は可能です。より深く調査したい方、気になる方はお問い合わせいただければと思います。

モールの中国企業から見る、得意ジャンル

ここからは各モールで上位150社に入った中国企業をNint ECommerceのフィルター機能を活用し、主力ジャンルを確認していきます。フィルター機能を活用すると、指定したジャンルにおける該当メーカーの売上規模を確認することが可能です。

今回調査した11の中国企業において、特に売上が高いジャンルを5つ紹介しましょう。

1:テレビ
2:バッテリー(発電機/モバイルバッテリー)
3:ドローン
4:ディスプレイ
5:ヘッドフォン・イヤホン


日本のEC市場で上位にランクインする中国企業は、バッテリー(発電機/モバイルバッテリー)やAV・映像機器を中心とした製品での展開がうまくいっていることがうかがえます。

上記以外でも、照明機器(LED電球・ライト)や、パソコン(本体)なども売上が高く、中国企業の得意なジャンルと言えそうです。

また、モバイルバッテリーなどの蓄電式バッテリーの多くは、リチウムイオン電池が使用されております。上記の結果は、世界のリチウムイオン電池産業国である中国の強みを大いに生かした展開による結果であると言えそうです。


次は、中国企業の得意ジャンルにおける市場動向を確認します。

今回は、「テレビ」「バッテリー(発電機)」と、「1~5のジャンル全て」のパターンを3大ECモール市場規模で見ていきます。それぞれのパターンに特徴が見られる興味深い結果となっています。

テレビ市場(中国企業黒船型)

3大ECモールの「テレビジャンル」を抽出、TOP20企業の2019年からの推移をチェックします。

図4:テレビジャンルTOP20社売上推移

図5:テレビジャンルTOP20社売上構成比

テレビジャンルを確認すると、中国企業が好調に推移する一方、日本企業が減少する傾向がハッキリと見て取れ、中国企業の低価格で高品質となったテレビに日本企業がシェアを奪われていることが分かります。まさにEC市場のテレビジャンルにおいて、中国企業は黒船のような存在感があります。

バッテリー(発電機)市場(中国企業独占型)

中国が得意とするバッテリー市場の発電機市場を見ていきましょう。

図6:バッテリー(発電機)ジャンルTOP20社売上推移

図7:バッテリー(発電機)ジャンルTOP20社売上構成比

バッテリー(発電機)はモバイルバッテリーとは異なり、現在も中国企業が独走状態です。

2020年、半導体不足などの影響により、一時的に日本企業がシェア率を戻しましたが、2021年以降シェア率は2019年と同様に中国企業のシェア率が圧倒的です。このジャンルにおいてはまさに中国企業の独壇場となっており、他企業の追随を許さない状況なのです。

中国企業が得意なジャンル(他企業足踏み型)

最後に、上位の中国企業で得意なジャンル(バッテリー・テレビ・ドローン・ディスプレイ・イヤフォン)をまとめ、TOP20社の推移を確認します。

図8:中国企業得意ジャンル(バッテリー・テレビ・ドローン・ディスプレイ・イヤフォン)TOP20社売上推移

売上推移を確認すると、中国企業が年々売り上げを上昇させる一方で、日本企業をはじめとした企業では売上が横ばい傾向となっています。中国企業の得意なジャンルにおいて、他企業が苦戦・横ばいとなる傾向は、テレビやバッテリー(発電機)を見ると、今後も続くのではないかと予想されます。

まとめ

中国企業の台頭に関して、Nint ECommerceを用い上位企業を確認することで、どのジャンルで中国企業が展開しているかを確認してきましたが、いかがだったでしょうか?

リチウムイオン電池から展開されるジャンルに関しては、今後中国企業の参入が考えられます。資本力・生産力のある企業と正面から競うのか、それともニッチな需要を取り込み、唯一無二となっていくか、生き残りをかけた戦略を練る必要がありそうです。

次回は、始まった2024年の物流問題に関して、弊社の物流エバンジェリスト「川島」がコラム記事を担当致します。労働時間・人員確保をはじめとしたこの問題に関して、今後何が起きていくのか、その対策はどうすればいいのか。解説していきます。次回もお楽しみに!

備考

本調査にあたり、設定した定義は以下の通り。
【定義】
 ・各年(2019年~2023年)はその年の1月から12月とした
 ・企業に関しては、日本法人が存在しても、本社所在地がある国を該当企業の国とした
 ・年度の推移は、「各年」の150位ではなく、2023年度の上位150位企業を基準として
  集計を実施した。
  ※2019年300位でも、2023年100位であれば、その企業は集計対象となり、
   2019年100位でも、2023年300位の企業は集計対象外となります。
 ・集計対象は3大ECモールの全ジャンル
 ・各月の全ジャンルにおけるTOP100のメーカーを抽出、集計した。
 ・ジャンル階層は1階層を集計対象とした。
 ・データ抽出期間は以下の通り。
  2019年1月~2023年12月

■本記事の転載・一部転載に関しては、株式会社Nintへご連絡ください。
■調査対象:Nint推計データNint推計データは、AIやクローリングなどの技術により⽇本国内の3⼤ECモールで販売される商品の売上⾦額・販売数量を⾼精度に推計したデータに、サイト内でのプロモーションデータ等を加えた、EC市場の総合的な分析を可能にするビッグデータです。

※本稿における Nint 推計データは 2024年3⽉時点のものを使⽤
作成:山本 真大(Masahiro Yamamoto)
編集:村上 咲(Saki Murakami) 瀧坂 義尚(Yoshinao Takisaka)

■Nint ECommerceはこちら!

Nint ECommerceは、大手ECモール(楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)の公開データを独自技術で集計し、商品カテゴリ別の流通額やメーカー別シェア、モールに出店する企業の商品毎の売れ筋商品や広告施策の動向分析といった市場動向データを提供することで、EC運営の意思決定をサポートします。
詳しくは、サービスHPをご覧ください。



■Nintメルマガはこちら!

Nintではメルマガ配信を行っております。
NintのブログやYoutube、セミナーなど、Nintから発信するECモール市場の情報をいち早く受け取ることができます。

◾️Kindle書籍第二弾が発売

新たに「季節催事」「コラム」を加え、アフターコロナを迎えた2023年のEC市場分析と、2024年以降のこれからを考える一冊。こちら!


著者

山本 真大

株式会社明治の菓子営業としてキャリアをスタート、IT業界、流通業界・他業界でのメーカー職を経験し、オフライン市場における、製造・流通の知見を学ぶ。
EC業界の今後に魅力を感じ株式会社Nintへ入社。営業・カスタマーサクセスを経て現在のアナリスト業務に従事。
EC市場を分析したブログ記事を中心に執筆中。