【第5回】どうなる?今後のデータマーケティング

稲益 仁

国内におけるEC経由での物流総額は年々凄まじいスピードで上昇し続けています。

競争が激化していくマーケットにおいて、今後を勝ち抜いていくためにはEC事業会社それぞれが持つデータを活用したマーケティングがこれからは必要です。

本連載を通じて、最先端のデータマーケティングについて語ります。

【第1回】いまデータマーケティングをやるべきたった1つの理由
https://ecnomikata.com/column/9150/

【第2回】データマーケティングに取り組む際のデータ蓄積法
https://ecnomikata.com/column/9793/

【第3回】事例に基づくデータの活用方法(LINE編)
https://ecnomikata.com/column/10256/

【第4回】CRMデータ×Cookieデータを活用した広告配信
https://www.ecnomikata.com/column/10720/

最終回となる今回は・・・

これまで過去4回に渡り、「なぜ今、データマーケティングが必要なのか?」といったマーケットの背景から、「データマーケティングを実施する際、どのようにしてデータを貯めていくべきか?」という、抑えておきたいポイントや、更にどのようにデータを活用していくのか?と、事例挙げてご紹介してきました。

最終回となる今回は、今後のデータマーケティングについてご紹介します。

今後のデータマーケティングについて

今後のデータマーケティングについてご紹介する前に、まず、私がデータマーケティングに至るまでの経緯を簡単にご紹介。

当初は、単なるメルマガからCRMに携わりだし、その後、シナリオを含んだメールマーケティングへと発展し、メールマーケティングを自動化するためにマーケティングオートメーションも取扱いはじめた。

マーケティングオートメーションツールを取扱いはじめると、購買日や累計購入金額、顧客の属性、購買した商品など多様なデータが手に入るようになる。

膨大なデータを分析しセグメンテーションをおこないメール配信をおこない、メール配信だけでは勿体ないと、CRMデータを外部メディアと接続し広告配信まで手掛けるようになった。

正直、インターネット広告の世界において、CRMデータを“かなり細かく”セグメントして、配信から効果検証までやったことある人は稀有だと思っている。

事例も何もなかったし、どれぐらい効果が出せるのかもわからなかった。とにかくやってみるしか無い状況だった。
そこまでやったからこそ、1つの結論に至った。

「CRMデータを活用したデータマーケティングは母数が小さくインパクトが無い」ということだ。


誤解なきように補足すると、メールマーケティングもCRMデータを活用した広告配信もできるならばやった方がよい。

そもそも、メールをフルに活用できている企業は珍しいですし、シナリオもクリエイティブも改善の余地が残るところが圧倒的多数だ。

CRMデータを活用した広告配信(リターゲティングの細分化やLINE連携など)においても、はっきりいって、効果は高い。やった方がいいに決まっているが、やる為のハードルが高く、実現するまでに膨大な時間とコストがかかるのも事実だ。

それでも、実施可能な余力があるのであれば、ぜひ実施をお勧めする。

結論への2つの理由

結論への2つの理由

結論に至った背景を説明すると以下の2つが挙げられる。


①自社で保有できるデータが圧倒的少量である

一般的にWEBサイトに訪れるユーザーのそのサイトにおけるCVRは1%程度。
つまり自社で保有できるデータは訪問者全体からするとたったの1%しかないのだ。


②保有したデータを更に細分化するためより母数が少なくなる

そのたった1%のデータを分析し細かくセグメントしシナリオに沿って、配信していくとなると、更に対象母数が減る為、より配信対象者が減ることになる。

例えば、SEMで1か月あたり5000万円使用しているクライアントだと、CRMデータ連携による広告配信はできても100万円程度だ。

メールの配信対象者数も10,000人の訪問者に対して、購入者100名に絞られ、メール受信を許可しているのは約半数となるため50名程度にしか届かないのだ。

この事実に気づき、これからのデータマーケティングを考える上で対象を広げることを思い立った。

筆者が先日登壇したアドテック東京2016のセッションでも使用したスライドが説明しやすい為、上記に引用した。

対象を広げたデータマーケティング

我々が考える今後のデータマーケティングは、コンバージョンしたユーザーのデータだけではなく、サイトに訪問したユーザー全てを対象と捉える。

コンバージョン後にデータを活用して接客していくのではなく、サイト訪問時点から接客していくことで、そもそものCVRを上げていこういうものだ。

その考えに基づき、考案されたのが、AIを搭載したチャットツール「AI Messenger(エーアイメッセンジャー)」だ。
(※人工知能を活用したチャットボット事業を行うサイバーエージェントの連結子会社である株式会社AIメッセンジャーより、2016年7月1日にローンチ)


現状のECサイトでは「不明点があればメールを送って24時間以内に回答します」といった対応をしている運営元がまだまだ多い。しかしこれでは、すぐに答えがほしいユーザーニーズと全くマッチしていない。

国内においてチャットが普及していないのは、チャット導入に伴う専任人材配置のコストと人材教育といった煩わしさにあると考えている。


そこで私たちがとった答えは「AI(人工知能)」だ。
AIであれば24時間365日稼働し、ユーザーの疑問をその場で払拭することが可能になり、問い合わせ量がどれだけ増えても人件費増加とも無縁だ。

ユーザーの疑問をその場で払拭することができ、更には、より丁寧な接客をAIが学び進化していくことで、サイト全体のCVRは上昇していくものと考えている。


今後のデータマーケティングは、これまで活用できていなかった、訪問時のデータ(cookie情報やチャットでの応対データ)を活用することからはじまり、その後は、顧客の属性や購買データを活用することで、より複雑なコミュニケーションが可能となる。

前述した「今後のデータマーケティング」は、既に数社で実装がはじまっているので、今後機会があれば、この場を借りてその事例と効果を紹介していきたい。


【あとがき】
全5回に渡り、最後まで読み進めてくださりありがとうございました。少しでも読者のみなさんにとって有益な情報となっていれば幸いです。


著者

稲益 仁 (Jin Inamasu)

1981年福岡県生まれ。広告代理店でのグラフィックデザイン・編集デザイン経験し、2006年にサイバーエージェントへ入社。福岡支社に配属して以来、一貫して“単品リピート通販”クライアントを担当。2014年4月にダイレクトマーケティング局を立ち上げ、全国各地の単品リピート通販企業をスタッフとして支援。事業計画の策定から、販促企画・クリエイティブ、CRM企画まで多岐にわたり、デジタルマーケティング業務全般に従事。そして2015年6月に顧客のLTV最大化をミッションとした専門組織「eCRMソリューション局」を設立し局長に就任。顧客の購買データを活用した全く新しいCRMソリューションを国内に浸透させるべく、日々全国を飛び回る毎日を送っている。社内表彰ではベストプレイヤー、MVP、ベストマネジャー等多数受賞の実績がある。