アナログ好きによる、温度感を重視した「梅干し」メインのECショップ「BambooCut Market」

藤井竜太朗【MIKATA編集部】

(左から)株式会社バンブーカット プロダクトマネージャー 山下ひとみ氏、代表取締役 竹内順平氏、取締役 切替瑶太氏。浅草「梅と星」にて

遊び心たっぷりに「梅干し」を中心とした商品を紹介・販売し、カラーミーショップ大賞2023でジャンル賞(食品)を受賞したECショップ「BambooCut Market」。同ショップを運営しながら、東京スカイツリータウン内の東京ソラマチにある「立ち喰い梅干し屋」や浅草で羽釜ごはんと梅干しを楽しめる飲食店「梅と星」も営む株式会社バンブーカットの代表取締役の竹内順平氏、取締役の切替瑶太氏、プロダクトマネージャーの山下ひとみ氏に、EC運営における苦労やこだわりについて話を聞いた。

「梅干し」で起業した背景は

──梅を中心とした食品のショップを展開されていますが、ショップを始めた背景を教えてください。

株式会社バンブーカット 代表取締役 竹内順平氏(以下、竹内) 事業としては2014年に始めたんですけど、僕はその前まで糸井重里さんの「ほぼ日刊イトイ新聞(通称:ほぼ日=ほぼにち)」にいました。そこで、勉強させていただいて、自分たちで何か企画をして、ご飯を食べていけたらと思い始めたのがこの会社です。

なので、梅干しが先というよりは、自分たちの企画で人を何か喜ばせたり、面白いことをしたいと思ったのが最初なんです。フラットにアイデアを考えていたときに、たまたま梅茶漬けを食べていて、その梅干しを見て、これって多くの人が日本を代表する食ベ物だと思っているけど、なぜそういう立ち位置にいるんだろうっていうのが気になったんですね。それで、関連本をたくさん読んで、実際に紀州(和歌山県)に行ってみて、わかったことと言えば、健康にいいこととおいしいことだけでした。

でも、僕が感じている、その梅干しの不思議さ、見たらよだれが出ちゃうとか、酸っぱい顔してると周りが笑ってくれるとか、この食材ってただ者じゃない魅力があるよなって思って、その理由を探っていたら、いつの間にか10年たっていたという感じですね。

──共同で会社を始めた切替さんとは、梅干しでビジネスを始めることについて相談はしたのですか。

竹内 切替に梅干しで何かやりたいと話したら、「面白いじゃん」ということで車で紀州に行くことになったんですが、その途中でボソッと「あのさ、オレ梅干し食べられないんだよね」と。高速道路で、冗談抜きに急ブレーキをかけそうになりましたね(笑)。

ただ、紀州に着いた後、梅干しをひたすら食べたことで、僕はだんだん飽きてきたんですけど、逆に切替が、梅干しを「おいしい、おいしい」と一個丸々食べられるようになったんです。あれは不思議でしたね。

株式会社バンブーカット 取締役 切替瑶太氏(以下、切替) 親が元々嫌いだったのかわからないですけど、食卓に出てなかったせいで、おそらく食べず嫌いだったんでしょうね(笑)。

──その紀州への梅干しの旅は、農園の方にアポをとって行ったのですか。

竹内 これがまた不思議な縁で。紀州梅効能研究会の窓口の方が僕らのやりたいことをすごく面白がって理解してくれて、梅干博士と呼ばれている宇都宮洋才(ひろとし)先生をはじめ、農家さんや他の会社さんを、自分の仕事の傍ら紹介してくれたんです。ありがたかったですね。

──いい出会いでしたね。

竹内 その方がいなかったら、多分続けられなかったです。その方の希望で名前は出せないんですけど、定年退職したら、何か一緒にやれたらいいですねとは言っています。

──そこから、会社を立ち上げるまではどんなことをやられたんですか。

切替 まず、生活雑貨店のロフトさんで「にっぽんの梅干し展」という展示をやりました。いろいろなアーティストさんに梅干しの作品を作ってもらって、お客さんは30分よだれ出っ放しの展示だったんですけど、それだけよだれを出させて、最後に梅干しを買えないのは申し訳ないということで、それまでに食べておいしかった梅干しを集めて販売したら、それがロフトさんからも褒められるくらい売れたというのが第一歩ですね。

──そのときはすでに法人化されていたのですか。

竹内 まだ個人事業主で、法人化したきっかけは2016年の熊本地震のときでした。前職の「ほぼ日」のお仕事で宮城・気仙沼の復興関係のお仕事をさせていただいていた流れで、被災地の熊本にも梅干しで何かできることはないか模索したんですが、何もできなくて。無力感を味わっていたときに、その次の震災のときには何か自分たちで力になれることを今からやっておきたいと思って、作ったのが「備え梅」という商品だったんです。初めてプロダクトを作って在庫を抱えるという段になって、ちゃんと信頼してもらえる、商品として知ってもらえるように株式会社バンブーカットという名前にして法人化しました。

糸井重里氏から寄贈されたエッセイ

「ほぼ日」糸井重里氏の助言でECショップを強化

──糸井さんとは今でもお付き合いされているのですか。

竹内 梅干しの企画を最初にやって、糸井さんにも見に来てもらいましたね。でも、その当時は続けられるとは思っていなかったので、次の企画は梅干しではない企画を考えていたんですけど、糸井さんからは「梅干しを続けなさい」と言っていただきました。

これだけ足で稼いで必死に(梅干しを)集めたんだから、続けなさいと言われて。何年続けろとは言われなかったですけど、糸井さんに続けなさいって言ってもらったからには、10年続けたいと思いながら、もう駄目かなと思ったときに、ポツポツとお声掛けがあり、せっかく声かけてもらえるんだったらやらなきゃなと思って、また一生懸命やらせてもらって、またもう駄目かなと思ったらまた声が掛かって、みたいな感じの連続でした。

──ECショップを頑張ろうと思ったきっかけも糸井さんなのですか。

竹内 そうなんです。糸井さんには「ECを頑張りなさい」って言われました。でも「苦手なんです」と話すと、「仕事なのに苦手とか言ってるんじゃない」って怒られました(笑)。今でも本当に大きな局面では、相談させてもらっていますし、浅草にこの店を作るときも、たくさん相談に乗ってくれて、僕にとって大変大きな存在です。

法人化したきっかけとなった商品「備え梅」

自社ECにこだわりたい

──実店舗でのビジネスと並行して、ECショップを立ち上げられましたが、ECを立ち上げるにあたって、どういった点で苦労されましたか。

竹内 僕が大学で舞台演出などを勉強していたので、本当にアナログ好きで、温度感というものを感じられないからインターネットの世界があまり好きじゃないんです(笑)。その中で、「ほぼ日」というメディアが唯一、インターネットでとっても温かい世界を作っていて、初めてインターネットで好きになれた場所だったんですね。

ECというと、ストレスなく、なるべく早く瞬発的に買ってもらうということが大事になると思うのですが、それと、僕自身が志向する「何か面白がってもらうこと」っていうのが、やや相反する部分があると思っていて、ちょうどいい塩梅 を見つけられずにいますね。

切替 実店舗にお客さんが来てくれて、会話をする中でお客さんに合った梅干しを販売する手法が、オンラインだと梅干しがただ並んでいるだけに見えてしまうっていうところがすごく難しい部分ではありますよね。お客様が目の前にいないので、何を欲しているかを理解するのが難しくて、どこまでそこを突き詰められるかというのが、これからの課題になりますね。

竹内 僕らの売上って実店舗が8割、ECが2割なんですが、実店舗のほうは、人ありきで、他の梅干し屋さんとは全く違うサービスをしていて、絶対に負けない自信があるんです。ただ、ECになるとPCやスマホの画面上でのデザインでしかまだ表現できなくて、そこがもどかしいところではありますね。他のサイトと比べて、ウチのサイトって、シュッとしたスタイリッシュな感じがないんですけど(笑)、それは温度感を重視した作りということで、デザイナーさんにお願いしました。

──そういった中で、GMOペバボのカラーミーショップ大賞のジャンル賞(食品)を受賞しました。

切替 そうですね。ECの売上を伸ばすために何かもっといろいろ変えないととちょうど話していたところに、今回の大賞のお話をいただいたので、方向的に間違えてはいなかったのかなっていう気持ちにさせてくれましたね。

──自社ECについては、細かなところまで考えられていますが、モールでの販売はやらないのですか。

竹内 Amazonにしても、楽天市場にしても、モールで買った物が届いて、自分がうれしかったこととか、記憶に焼き付いたことは少なくて、現時点ではあまり考えていません。もしかしたら、会社として利益はもっと出せるのかもしれないけど、できればモールを使わずに今のサイトで戦えるようになりたいですね。

──やはり自社ECの場合のほうが、より工夫できるという余地があるとお考えということですよね。

株式会社バンブーカット プロダクトマネージャー 山下ひとみ氏 自社ECでできる工夫という点では、配送時の独自サービスについて今まさに話し合っていて、オリジナルの段ボール を作ろうとしているところです。今は毎月一つポストカード作って、注文してくださった方に封入して配送しています。ECで受注〜発送という流れの中では、なかなかオリジナリティは出せないので、お届けする段ボールや感謝の気持ちを添えたポストカードなど、工夫できるところで、盛り上げていきたいですね。

竹内さんと切替さんは学生時代からの友人。竹内さんは落語家・立川志の輔さんの長男で、落語家を目指したこともあったという

BambooCut Marketのこれから

──今後はどういったショップ展開をされる予定でしょうか。

竹内 まだ浅草で店舗を出す前に、1回だけ越境ECの営業がありましたが、「インボイスを書くのも大変だし、ウチではそんなに請け負えません」と話して、すぐ終わったんです。でも、たしかに浅草って訪日客が多い場所なので、世界中がお客様になる越境ECはやってみたいですよね。ここ(実店舗)に来てくれたお客様がECのお客様にもなるので、大事にしたいですし。

──ECショップとして、どういった姿を目指しますか。

切替 サイトに来た人が遊園地に来たくらいの面白さ、楽しさを感じられる空間を作りたいですね。ECショップの中に実店舗があるのが一番いいんですけど、ECでは対面もできないので、いかにお客様に寄り添って梅干しを伝えていけるかというページ作りを追求していきたいですね。梅干しといえばBambooCut Marketだと思っていただけるショップにできたらと考えています。

竹内 このサイトは「贈り物=ギフト」として使っていただいている方がすごく多いんです。なので、現状は買っていただいた方には何も届かず、送り先の方が喜んでいるという形なので、受け取った方が喜んでくれて、その感謝の気持ちを買っていただいた方に届ける仕組みを作れたらいいなと思います。ギフトとして強くなるということはもちろん、このサイトから送ったら、とても喜ばれるっていうお店にしたいですね

BambooCut Market