国交省・経産省やヤマト、日本郵便、佐川急便、楽天、Amazon、LINEヤフーも参画 都が「東京物流ビズ」開始

三浦真弓【MIKATA編集部】

2024年3月28日、東京都が「物流の2024年問題」(※1)への対応として、「再配達削減等の物流効率化に向けたプロジェクト」を展開することを発表し、キックオフイベントを開催。本プロジェクトの名称「東京物流ビズ」とロゴを発表し、合わせて募集していた再配達削減に向けた啓発活動を実施する事業者も発表した。


※1:トラックドライバーへの時間外労働の上限規制が適用されることから生じる、輸送力の不足をはじめとする諸問題

人材やモーダルシフト関連補助金、無償の駐車スペース提供などに都が取り組む

「東京物流ビズ」と銘打ったプロジェクトを開始した東京都は、再配達削減等の物流効率化に向け、何に、どのように取り組むのか。

具体的には「事業者支援」「東京港の混雑解消」「荷主・都民への意識改革」「物流の効率化」「集合・戸建て住宅」の5つの場面を想定した取り組みを行うという。

それぞれの施策は、下記の関連局が行っていく。

■産業労働局「物流事業者支援」として、人材の確保や設備投資で業務を効率化する取り組みを、助成金などでサポート。
■港湾局「国内コンテナ輸送のモーダルシフトの推進」として、東京港で取り扱うコンテナ貨物の国内輸送について、トラックから船舶や鉄道へ転換する「モーダルシフト」の取り組みを補助金などにより後押し。
■都市整備局「貨物車駐車スペース提供事業」として、物流事業者が効率的に荷捌きを行えるよう、集配送先となる住宅地等において、無償で駐車スペースを提供する取り組みを開始。
■環境局「宅配ボックス設置支援」として住宅への宅配ボックスの設置について、設置経費の支援を行う区市町村をバックアップ。
■都市整備局「再配達削減の取組」として、宅配事業者が行う再配達削減に向けたキャンペーン活動において、消費者への啓発を促すツールとして置き配バッグの配布を行う取り組みを支援。

東京都の小池百合子知事。「東京物流ビズ」の名称とともにロゴが発表された

キックオフイベントでは再配達削減に向けた啓発活動を実施する事業者も決定。まずは佐川急便株式会社、日本郵便株式会社、株式会社バルクオム、ヤマト運輸株式会社選ばれた。これら事業者等に対し、「来年度、各事業者がキャンペーンを展開をする中で、都民に置き配バッグを無償で配布する」事業で支援をすると東京都の小池百合子知事が説明した。

また、「東京物流ビズ」には、他にも複数の官公庁・企業が参画。

国からは国土交通省、経済産業省。物流事業者・通販事業者としてヤマト運輸、佐川急便、日本郵便、アマゾンジャパン合同会社、楽天グループ株式会社、LINE ヤフー株式会社。関連団体としては東京商工会議所、日本自動車ターミナル株式会社、一般社団法人 東京都トラック協会、一般財団法人 日本消費者協会の参画が紹介された。

小池都知事は「荷主、消費者、物流事業者それぞれができることがあります。それぞれが変わらなければ、(物流は)変わらないということも事実。『みんなで守る物流の未来』を合言葉に協力し合ってまいりましょう」と結んだ。

国交省は軽トラ規制など法整備急ぐ。再配達は宅配事業者とポイント施策を秋に

イベントに登壇した国土交通省の物流・自動車局長の鶴田浩久氏は、「物流革新に向けた政策パッケージ」について改めて説明。

物流への取り組みに関しては法整備も急いでおり、中でも現国会にて「流通業務総合効率化法(荷主・物流事業者に対する規制)」「貨物自動車運送事業法(トラック事業者の取引に対する規制)」「貨物自動車運送事業法(軽トラック事業者に対する規制)」に関して、提出済みだといい、成立まではそう時間がかからないことがうかがえた。軽トラック事業者に対する規制についていえば、現在、ラストワンマイルの部分を担う重要な輸送手段でありながらも事故が増えているという現状もある(※2)。この点はEC事業者として、注視しておきたいところだ。

※2:国土交通省では「近年、EC(電子商取引)市場の拡大により、軽自動車による運送需要が拡大しているところ、平成28年から令和4年にかけて、保有台数1万台当たりの事業用軽自動車の死亡・重傷事故件数は約5割増加している状況」と報告している。
参考資料 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000154.html

またこれまでにない予算も組んでいるといい、「再配達に関しては、消費者の行動変容のため、今日出席している宅配事業者等とも連携し、ゆとりのある配送日時設定や土日指定、あるいはコンビニ受取など(再配達削減につながる)注文をした人にポイントバックをする事業を始めようとしている。秋ごろにはキャンペーンが実施できるのではないか」(国交省 鶴田氏)とした。なお4月は再配達削減のPRを強める月間として、政府広報、チラシの配布、デジタルサイネージなどの媒体で訴求するという。

国土交通省の物流・自動車局長の鶴田浩久氏

さらに物流効率化に向けた取り組みについて、東京商工会議所、ヤマト運輸も登壇。

東京商工会議所の取り組みは、中小企業の2024年対応を後押しするものだ。サプライチェーン全体の共存共栄のために「パートナーシップ構築宣言」を強く推進しており、原材料価格やエネルギー価格、労務費などの上昇分を、下請中小企業が適切に取引価格に転嫁できるよう、取り組んでいる。また関東商工会議所連合会では、関東運輸局、そして関東経済産業局からの要請を受けて、トラック事業の適正化、生産性向上に向けた取り組みについて周知しているという。

ヤマト運輸は再配達への取り組みとして、消費者の行動変容につながる「クロネコメンバーズ」を紹介。同サービスを通じた荷物の受け取り場所の変更、利便性向上によって再配達削減につなげているという。

もし、トラックが止まってしまったら?を問いかける

印象的だったのが、東京都トラック協会会長の浅井隆氏の話だ。

浅井氏によれば、日本の貨物輸送は年間40億トン以上に上るが、「その約9割をトラックが担って」いる。トラック輸送のほとんどはBtoB輸送だが、これを支えるのは緑ナンバーの営業用トラックであり、白ナンバーの自家用トラックの約2倍に上るという。

トラック輸送業者は99%が中小企業であり、従業員数20人以下が75%、30人以下になると92%と、小さな会社が日本のトラック輸送を支えています」と浅井氏。しかしトラック輸送を支えるトラックドライバーの7割はすでに40歳以上で、女性の進出が非常に少なく、この10年はほぼ横ばいであるためこのままでは高齢化に伴いドライバー不足になることは必至だ。

「“物流の2024年問題”は、長時間労働が課題となっていたトラックドライバーの労働環境の改善につながることが期待されていますが、一方で、トラックの輸送力不足により、荷物が運べなくなる可能性があります。しかしもし、トラックが止まってしまったら一体どんなことが起きるでしょうか」(浅井氏)

例えば、コンビニやスーパーに商品や食材が届かなくなる。病院や薬局に医療用器具や薬が届かなくなり、病気やけがの人を助けられなくなるといった可能性があると、浅井氏は指摘。もちろん商品の製造に必要な原料が製造元に届かなくなれば生産ができないし、さらにお客様に荷物を届けられなくなればEC事業の存続そのものが困難になる。

「私たちはトラックを絶対に止めたくありません。そのためには、都民の皆様や荷主の皆様の協力が必要です。都民の皆様には、輸送回数を減らすための工夫をぜひともお願いいたします。そして、荷主の皆様には、トラック運送事業者がなくならないよう、トラックドライバーがいなくなってしまわないよう、トラック輸送に必要な費用に見合った、運賃や料金の指示にご協力をお願いいたします」と浅井氏は訴えた。

物流2024年問題は、再配達削減をすれば解決するわけではもちろんない。しかし、BtoB輸送にしても、多くは「消費者に向けた商品・サービスを製造するため」に動いているといえるだろう。

やはり消費者・荷主の意識改革・行動変容は不可欠だろう。


キックオフイベントにはプロジェクトに参画する関係団体・企業の代表者が登壇。
前列左よりLINEヤフーのコマースカンパニーショッピング統括本部 Yahoo!ショッピングプロダクトオーナー 杉本務氏、楽天グループの上級執行役員 木村美樹氏、アマゾンジャパンのアマゾンロジスティクス リージョナルディレクター 道上淳之介氏、東京都トラック協会の会長 浅井隆氏、小池百合子東京都知事、東京商工会議所の副会頭(東急株式会社取締役会長) 野本弘文氏、ヤマト運輸の常務執行役員〈東京統括〉阿部珠樹氏、佐川急便の物流企画室長 取締役 経営企画担当 兼 経営企画部長 吉田貴行氏、日本郵便の専務取締役兼専務執行役員 津山克彦氏
後列左より都市整備局局長 谷崎馨一氏、産業労働局局長 坂本雅彦氏、日本自動車ターミナル 代表取締役社長 藤田裕司氏、経済産業省 商務・サービスグループ 中野剛志氏、国土交通省 物流・自動車局長 鶴田浩久氏、消費者協会 専務理事 橋本康正氏、環境局局長 栗岡祥一氏、港湾局局長 松川桂子氏