アスクル、新物流拠点の開始&ECマーケティングラボの本格始動

石郷“145”マナブ

アスクル株式会社が再生へ向けて、着実に確かに動き出した。

 アスクルが運営する「LOHACO」は、通常の小売とは少し違った動きをしており、そこが興味深い点ではあるが、先日の火災の一件で同社のそうしたイノベーティブな活動がなりを潜めてしまっていた。

 イノベーティブといってもどのようなものがあるのか、という話だが、同社本社内に研究拠点を設置した意欲的な取り組み「LOHACO ECマーケティングラボ」がまさにそれにあたる。LOHACOは確かにECではあるが、ECによってお客様の購入動向をビッグデータとして蓄積し、これらを活用して、企業における新たなマーケティング手法を目指すものである。

LOHACOのビッグデータのオープン化で小さな革命

LOHACOのビッグデータのオープン化で小さな革命

 具体的には、生活者とメーカーを直接つなぐ「社会最適」な流通プラットフォームの構築を念頭に置いていて、まず第一に、LOHACOにおけるビッグデータをオープン化。さらに、それに基づき、お客様の購買行動プロセスやライフスタイルの多様化から浮き彫りになる“真のニーズ”に業種や競合関係といった垣根を超えてラボ参加企業が共に取り組むのである。

 今までアスクルという会社は、思うに、長年、商品のメーカーとやりとりする中で、メーカーに対しての思い入れは強いのだと思う。ネット通販が隆盛を極めるたび、従来のマーケティング手法だけでは十分とはいえず、だからこそ、ビッグデータのもとに、メーカーもライバル会社で対立することなく、一緒に新たなマーケットを作ろうとしているその点が革新的だと思うのだ

 事実、これらのマーケティング活動の情報や事例をオープン化・共有化することによる相乗効果は高く、ラボ参加企業同士による学びの場として成立しているのである。これまで、第3期に渡ってその活動は行われ、第3期の成果としては、「販促」「メーカープロモーション」「商品開発&ライフサイクル」などの4つの分科会での活動を実践し、新規顧客獲得や顧客ロイヤリティ醸成などの大きな成果を生んだとしている。

いよいよマーケティングラボ4期スタート。そこの中身は?

いよいよマーケティングラボ4期スタート。そこの中身は?

 市場に大きなインパクトを与えた施策としては、“暮らしになじむデザイン”をコンセプトに食品や日用品の商品開発を行った事例が挙げられ、店頭で目立つのではなく、購入後の暮らしになじむことを第一に、ラボ参加企業36社とともに生活者視点の商品を追求した。

 2016年秋に開催された日本最大級のデザイン展でこれまでにない新しい視点のデザイン商品を発表し、話題となったのもこれらの商品だ。ECでは商品を選ぶために必要な情報をサイト上に掲載することができ、商品本体への表記は最低限で済む、という特性を生かして磨きこまれたEC専用のデザイン商品は、お客様の支持を得て販売実績が伸長し成功事例が出ているというのだ。

 そして、第4期では、第3期の参加企業に、新規参加企業19社を合わせて、合計123社の参加を得て始動する。今期は、LOHACO専用新物流センターの立ち上げに伴い、AIのさらなる活用と物流をも含めた新しいマーケティングプラットフォーム化に挑戦するというのだから、その成長に対しての意欲は著しい。

岩田社長の約束通り、アスクルのECは再生しつつ、そして、進化する

 以前、火災に関する記者会見の席上、私から「「LOHACO ECマーケティングラボ」のような優れた取り組みがアスクルにはある。企業も消費者も待ち望んでいるが、手を休めることはないですよね?」とエールも込めて質問させていただいた際、岩田社長は少し表情が柔らかになって、決してやめることなく、継続して進めていくことを約束してくれた。
 
 また、 2 月に発生した火災により、LOHACO の東日本向け基幹センターであった「ASKUL Logi PARK 首都圏」(以下 ALP 首都圏)の出荷能力を失われたが、そこに対しての対応は着々と進めていて、このほど、新たな物流拠点「ASKUL Value Center 日高」(アスクルバリューセンター日高、所在地:埼玉県日高市、以下 AVC 日高)を新設したことを発表し、 4 月 20 日から出荷を開始している。

 あの時の火災の悲しみと企業があのひと時で、置かれる状況が一変する怖さを実感したのも事実だが、そんな状況から必ず再生し、新たな輝きを見せてくれることが彼らに課された大きな使命であるように思う。イノベーティブな活動で、消費者を沸かせ、メーカーの貴重価値を与える一助となって欲しい。

 それは、今後、時に輝きを失い自信を失った企業たちに勇気を与えることになり、背中を押してくれることになるに違いないからだ。今、正念場のアスクルは、大きな一歩を歩み出す。きっと、彼らにも、明日は来る。


記者プロフィール

石郷“145”マナブ

キャラクター業界の業界紙の元記者でSweetモデル矢野未希子さんのジュエリーを企画したり、少々変わった経歴。企画や営業を経験した後、ECのミカタで自分の原点である記者へ。トマトが苦手。カラオケオーディションで一次通過した事は数少ない小さな自慢。

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