ヤマト運輸、働き方改革へ。ビジネスモデルからの抜本的な見直しを決定

ECのミカタ編集部

 ヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸株式会社(本社:東京都中央区)は、2017年4月13日に開催した取締役会において「働き方改革」の基本骨子について決定した。労働環境の改善・整備にとどまらず、デリバリー事業全体のビジネスモデル設計から見直し、改革していくことがその目的だ。

 いまや社会インフラとも言える宅急便を持続させるため、ヤマトが動いた。ヤマト運輸は社員が安心して働ける健全な労働環境を構築するため、2017年度の最優先経営課題として「働き方改革」に取り組むことを明らかにした。

 働き方に関する問題解決は、少子化や介護問題、過労死など、日本の諸問題への決定打として、至急命題とされている。今後ヤマト運輸は働き方およびビジネスモデルの見直しによって、顧客だけではなく社員についても、その満足度を向上させる構えだ。

Eコマースの拡大に合わせた労働環境を

 Amazonや楽天など、Eコマースの急拡大による大幅な荷物の増加と労働需給の逼迫によって、ヤマト運輸では体制の構築が追い付いていない状況にある。そして同社が本年2月から宅急便センターのセールスドライバーを中心とする社員の労働時間を調査したところ、多くの社員が休憩の未取得を申告できていないなどの問題が浮き彫りになった。
 
 そこでヤマト運輸が定めたのが、働き方改革に関する5つの基本骨子である。労働環境の改善・整備にとどまらず、宅配事業のビジネスモデル設計から包括的に見直し、改革していくことが狙いだ。

決定された「5つの働き方改革」

 今後ヤマト運輸は、以下の「働き方改革に関する5つの骨組み」を元として、労働環境の改善に取り組んでいく。

 まず1つ目が労務管理の改善と徹底だ。4月16日より労働時間の管理を入退館管理システムに一本化するとともに、管理者と点呼執行者を増員し、社員が労働時間を正確に申告、管理できる環境を整える。

 そして2つ目がワークライフバランスの推進社員がしっかりと休息を取れることを目的とした、休憩時間中の携帯電話の転送やインターバル制度の導入だ。また、ワークライフバランスを推進するため、保育所等の設置や在宅勤務制度の導入も検討していく。

 3つ目がサービスレベルの変更である。ヤマト運輸は6月中に、宅急便における配達時間帯の指定区分を見直す。特に顧客からの指定が集中して、長時間労働の一因となっていた「20-21時」を「19-21時」の2時間枠に。また昼休憩を確保するため「12-14時」の枠が廃止される。そのため、これまで6区分だった配達時間帯が5区分に変更されることとなる。さらに、4月中に再配達受付の締め切り時間が20時から19時へと1時間繰り上げられる。
 また宅急便以外にも、業務負荷・採算性の面で見直しが必要なサービスについては、改良・統廃合を検討する姿勢だ。

 4つ目が低単価の荷物比率の低減だ。Eコマース市場の急拡大を受け、依頼される荷物が急増した反面、低単価の荷物比率も増加した。しかし、それは現状の体制に見合ったものではなく、結果として社員が負担を強いられていたところがあった。そこでヤマト運輸は、宅急便の総量や運賃をコントロールすることを決定した。大口の顧客・低単価の顧客に対し、荷物量の抑制を依頼する考えを明らかにしている。上期中を目処に、顧客との交渉を進める姿勢だ。

 5つ目が新たな戦力の採用強化である。人口減少による労働力不足が深刻化する中、増税や社会保険料の適用範囲拡大といったコスト構造の変化に対応しつつ、いまいる社員への処遇を充実させることも確かに重要である。ヤマト運輸はそれに加えて、さらなる戦力強化の必要性を意識している。
 また、宅急便の基本運賃を、27年ぶりに値上げすることが決定された。これは、IT基盤やクロネコメンバーズ特典の拡充、スピーディーなオープン型宅配ロッカーの設置拡大などに投資することによる、再配達の削減が目的だ。値上げの内容は現在検討中で、決定次第の報告を予定している。

一瞬の売上よりも事業の継続を

 そしてヤマト運輸は、本社および全支社・全主管支店に 「働き方改革委員会」を設置した。スピーディーかつ総合的に5つの改革を推進するのが狙いだ。また上層部だけではなく、現場からの改善提案にも積極的に対応する姿勢を見せている。

 確かに、Eコマース取引量の飛躍的な伸びにより、以前よりも売上は上がるようになったのかもしれない。しかし、それによって不利益を被る人が出てくるのでは、事業の持続的な発展は難しいと言える。
 ヤマト運輸では今後「社員がイキイキと働ける職場を作り直し、社員の満足を高めていくこと」を最優先事項として事業を進めていく方針だ。
 即日配送などのハイクオリティな宅配サービスが当然とされている昨今である。しかし、労働環境の改善という観点から考えれば、それも見直しが必要な時期なのかもしれない。


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